トヨタ系Tier1企業との価格転嫁交渉。WIN-WINの関係構築を重視
F社(金属切削加工業(自動車産業向け部品))
この事例のポイント
コスト上昇要因
原材料費・人件費・エネルギー費・物流費
交渉手法
データ提示型・関係構築型
活用ツール・支援機関
市場客観データ・自社取組報告
定量的な成果
顧客数ベースで50%、売上ベースで80%のお客さまで転嫁実現
当時の課題
- 顧客の90%以上が自動車産業。
- トヨタ系Tier1企業が60%、その他Tier1が40%。
- Tier1企業は独自の計算式で転嫁価格を決定するため、材料費と労務費のデータの出し方が課題。
- 特に労務費はデータの出し方が難しかった。
取組概要
- 市場の客観的データを示しつつ自社の取り組みを含めて説明し交渉。
- 2023年4月から交渉開始。
- 交渉期間は顧客によって数か月〜1年から2年かかったケースも。
- お客さまとパートナーとして「WIN-WIN」の関係を構築することを重視し、創意工夫によるコストダウンを常に追求しながら、価格転嫁をお願いする姿勢で臨んだ。
成果概要
- ほぼすべてのお客さまで価格転嫁を実施。
- 実現できたお客さま数は50%だが、その50%のお客さまが売上の80%を占め、収益の改善に効果があった。
副次効果
供給責任やEV化への対応など今後の課題も明確に
森岡誠の解説
価格転嫁・価格交渉の専門家・経営アドバイザー
自動車産業のTier2以下で、Tier1企業との価格転嫁交渉に悩んでいる経営者に読んでほしい事例です。トヨタ系Tier1企業が顧客の60%を占める構造で、「WIN-WINの関係構築」を軸に交渉した手法が参考になります。
「Tier1企業は独自の計算式で転嫁価格を決定する」という指摘は、自動車産業特有の構造を表しています。発注側に計算式がある以上、こちらが希望額を提示するだけでは通りません。相手の計算式に乗るデータの出し方——特に材料費と労務費の根拠をどう示すかが勝負です。「データの出し方が難しかった」という正直な記述から、試行錯誤の過程がうかがえます。
顧客数ベースでは50%だが、売上ベースでは80%で転嫁を実現したという結果は、優先順位の付け方を示唆しています。全顧客と均等に交渉するのではなく、売上構成比の大きい顧客から優先的に交渉することで、限られた時間と労力で最大の効果を得ています。交渉期間が「数か月〜2年」と幅がある中で、この優先順位づけは合理的です。
「創意工夫によるコストダウンを常に追求しながら、価格転嫁をお願いする」という姿勢は、自動車産業の取引関係では特に重要です。値上げだけを要求する相手と、自社の改善努力を示しながら値上げを説明する相手では、発注側の受け止め方がまったく異なります。コストダウンの努力と価格転嫁は、矛盾するのではなく補完し合う関係です。
※ このコメントは森岡誠による独自の解釈・分析です。 著者について →