製造業・機械・設備 データ提示型 No.119
一社依存体質からの脱却の必要性を強く感じた価格転嫁交渉
J社(産業機械の開発・設計)
この事例のポイント
コスト上昇要因
人件費
交渉手法
データ提示型
活用ツール・支援機関
市場動向資料・賃上げデータ
一社依存申請から交渉へ転嫁幅不足新規事業
当時の課題
- 売上の100%が1社からの受注案件で一社依存体質。
- 10年間値上げなし。
- 労務費の上昇が転嫁の理由だが、従来は申請書を出すだけで交渉はしていなかった。
- 「安すぎる」価格設定が常態化。
取組概要
- 年に1回、受注価格(相手からすれば発注価格)を申請する機会を活用。
- 従来は申請書を出すだけだったが、今回は交渉の場を設けて価格転嫁の説明を実施。
- 市場動向や顧客企業の賃上げ等の資料を準備し、機械設備設計業界の特性(ベテラン設計士の高品質な設計、顧客の効率改善につながる逆提案)を伝えた。
成果概要
- 主要取引顧客との間で価格転嫁を実現したものの、転嫁の幅は希望よりもはるかに下回り満足できない結果。
- 先方の調達担当者からは「上げてもよいけど、(発注する)仕事の量は減るよ」と言われた。
- 一社依存の脱却が最大の課題として明確化。
副次効果
一社依存体質からの脱却の必要性が明確化。新規事業による売上分散の取り組みを開始
森岡誠の解説
価格転嫁・価格交渉の専門家・経営アドバイザー
売上の大部分を1社に依存しており、「値上げを言ったら仕事を減らされるのではないか」という恐怖を感じている経営者に読んでほしい事例です。この事例は成功談ではなく、転嫁幅が希望を大きく下回った「不満足な結果」を率直に記録しています。
「上げてもよいけど、仕事の量は減るよ」という発注側の発言は、一社依存の構造的な弱さを端的に示しています。売上100%が1社からの受注という状態では、相手にとって「代わりはいくらでもいる」という交渉力の非対称が生まれます。価格転嫁の前に、取引先の分散が必要だという教訓です。
10年間値上げなしで「安すぎる」価格が常態化していたにもかかわらず、従来は申請書を出すだけで交渉はしていなかったという点も見逃せません。「申請」と「交渉」は別物です。申請は相手の判断に委ねる行為、交渉は自社の根拠を示して合意を目指す行為です。今回初めて交渉の場を設けたこと自体が、10年間の停滞からの一歩です。
この事例の価値は、「成功しなかった事例から何を学ぶか」にあります。一社依存からの脱却、適正価格の設定、交渉力の構築——課題が明確になったこと自体が次のアクションにつながります。新規事業による売上分散の取り組みを開始したという後日談が、この事例の本当の成果です。
※ このコメントは森岡誠による独自の解釈・分析です。 著者について →